化学物質の爆発安全情報データベース

2. 1  ARC

2)  危険性評価としてのデータ解析

Fig.8にて説明する。設定した自己発熱開始温度判定値を超える発熱現象( T0)が確認されると、試料容器と周囲のジャケット部の温度との差を0.05℃以内に保ちつつ系全体の温度が断熱的に上昇する。試料からの熱が蓄積されるにつれ、温度は指数関数的に上昇し、最大自己発熱速度を経て、最高温度( Tfin)に達する。危険性評価としては、発熱が開始する温度(Tini)、断熱到達温度( Tfin)、断熱温度上昇(ΔT)などが重要な値となる。この装置は、Fig.6に示すように試料容器が圧力変換器に接続されているため、最大到達圧力などを知ることもできる。

Fig.8 ARCの測定結果例
Fig. 8 ARCの測定結果例

ここで断熱系においては以下に示す熱収支式,ならびに反応速度式が成立する。

完全な断熱系においては内部で発生した熱は,すべて試料の温度上昇に寄与するので,

(1)

が成り立つ。ここで,Cp:熱容量,T:絶対温度,t:時間,Q:反応熱,C:試料の濃度または重量である。また,反応の速度式がアレニウスの式に従うとすると,

(2)

            

であるから,

(3)

となる。(Cp/Q)が温度および成分に依存しないとすると,

 (4)

 ここで,Tf:断熱下での到達温度,To:初期温度,ΔT:断熱温度上昇,C :初期濃度または初期重量,n:反応次数である。反応物の濃度はある温度Tでは(6)式の関係にあると仮定すれば,

(5)

が成立する。即ち,自己発熱速度(dT/dt)は(7)式としてあらわせる。

(6)

一方、断熱温度上昇ΔTについては,反応熱の一部は試料容器を熱するため,その補正を行う必要がある。即ち,試料と試料容器とには熱平衡が成立している。

(7)

 ここで,Ms:試料の重さ,Cvs:試料の平均比熱,ΔTs:試料だけの断熱温度上昇、Mc:試料容器の重さ,C:試料容器の平均比熱,ΔT:試料と試料容器を含めた実測の断熱温度上昇である。従って,試料だけの断熱温度上昇 Δ Tsは(9)式であらわされる。φを熱補正係数という。

(8)

従って,(7)式における温度にはすべて熱補正係数が考慮されなければならない。

以上のことより,適切な反応次数n値を選べば,測定により得られる自己発熱速度( Fig.8のd T/dt)と温度の逆数をプロットするとにより,反応の活性化エネルギ-や頻度因子などを求めることが可能である。

さらに、TMR(Time to Maximum Rate)を得ることができる。TMRとは、最大の自己発熱速度、即ち最大の反応速度に達するまでの時間を意味する。(6)式を t=t~tmax,T=T~Tmaxの間で積分すると、最終的には(9)式を得る。結果例をFig.9に示した。

(9)
Fig.9 ARCで実測されるTMR結果例
Fig. 9  ARCで実測されるTMR結果例

同図より、例えば実プロセスにおいて温度を150℃下ではTMRは3分しかなく、何らかの対策をとるには短すぎるが、100℃に設定しておけば制御不能になって後に多くの時間が残されていると判断できる。